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アイエヌスタジオ 一級建築士事務所
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 北白川のフラット 

 Flat in Kitashirakawa 



 

 



 

 

 

 

 

 東京を離れて京都に住むことになった。住むからには、住むことについて考えようと思った。

 京都は盆地であり山に囲まれた都市である。都市の中央には近代までに整備された鴨川・御所・府立植物園などの大きな水と緑があり、経済規模を制限して建築物の高さと容積率が抑えられたことから都市のどこからも周囲の山が見える。また、中近世の寺社・町家がいたるところに残されたうえで、現代の生活と経済のための建築物が広がっている。つまり、古代の地形を基盤にして、中世から近代までに都市構造が形成されて古建築が建ち、近現代の建築物がオーバーレイしたのが京都の都市の実際であり、複数の厚みのある時間の重なりが空間化したものである。いわずもがな全ての都市は堆積した時間を備えているが、特に京都はそれが著しい。
 そして、京都市北白川のマンションを改修して住むことにした。そこは縄文中期から始まる深い歴史の居住地で、隣は御陵と呼ばれる中世の天皇の墳墓、その周りには古代の吉田山・近世の琵琶湖疏水・近代の大学植物園があり、周囲には近現代の大学・学生街・住宅地が広がっている。マンションは住宅地の路地の奥に建てられた築30年ほどのRC構造物である。ここも複数の厚みのある時間の重なりが空間化しており、信頼に足りる持続してきた時間の厚みがあり、これが住むことの拠りどころになると思われた。

 改修にあたって、全てを新しいものに作り変えることは考えられなかった。新品の建材に囲まれては、都市の時間と切り離された感じがしてしまう。かといって、徹底して古いものにするのも現代的な生活にそぐわず、生活がノスタルジーに固定されるような気がする。もっとも、旅行で一時滞在するにはよいのだが。やはり京都に持続的に住むには、京都の都市のように古いものと新しいものが並置された空間が良いと考えた。古いものがもつ時間の永続性と、新しいものがもつ時間の今日性が並置された、時間の分厚さのある空間に住んでみたい。
 まずはマンションのインフィルを解体し、コンクリートに直に貼られたクロスを剥がした。予期せず発掘された30年前のコンクリートの肌は荒々しい。ここに対置するように、新しく平滑で大きなECP(押出成形セメント板)を腰高にぐるりめぐらせカウンターとし、中央に一枚浮かせてテーブルとした。コンクリートとECPのあいだにはセメント質のフレキシブルボードを張って断熱と配線を納めた。新旧織り混ざったセメント材料がこの住居の躯体となる。
 腰高より下には合板の家具を並べ、内壁を合板でつくり、床を畳とコルクで仕上げた。そして、市内で行った住宅建替により得られた古建具を開口部に建て込んだ。古建具は玄関にあった縦格子の框戸や、内部にあった雪見障子・縦組障子・横格子の框戸で、おそらく50年ほど前のもの。マンションには日焼けした襖や新しい障子もあったので残しておいた。これらの木質材料がこの住居の生活を支える設いとなる。
 躯体と設いのツートーンで構成された住居には、新品の建材・30年物のコンクリートと襖・50年物の古建具が並び、700年続く御陵の森が5000年前から人の住む地面に生えているのが見える。今日の生活が古代まで連続していることが一望され、持続してきた時間の厚みのうえに住んでいることが実感される。連綿と続く都市の時間が住居に流れ込み、私達はそこに住む。

 市内からやってきた障子を日々開けては御陵の森を見て、ECPの上には鴨川で掬った魚を飼ったり野草を飾り、襖には植物園の蓮を描いてもらうなどして、住居に外の都市のイメージを写し取る。住居にしては大きいテーブルと畳には知人が訪れ、一室は仕事部屋にして手伝いの方が出入りする。マンションは個々の家族を守るべく閉鎖的な空間構成であるけれど、都市の時間を流し込み、都市のイメージを写し取り、住居の外の人々を受け入れることで、空間の開放によらずとも人の生活は都市に開かれて、住居は開放性を得るのではないか。

 

設計 IN STUDIO(小笹泉、奥村直子)
監理 IN STUDIO(小笹泉、奥村直子)
施工 林工務店
工事種別 改装
所在地 京都府京都市左京区北白川
延床面積 約80m2
設計期間 2020.1-2019.4
施工期間 2020.5-2020.7
写真 来田猛


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