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アイエヌスタジオ 一級建築士事務所
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 2019コリアンブックフェス 

 KBF2019 

 

 持続時間が1日間で、施工時間は2.5時間、容積880㎥の空間が必要になった。ちなみに費用は数十万円である。この設計条件は戸建住宅と比べると、持続時間は1万分の1、施工時間は500分の1で、容積は3.5倍、費用は100分の1である。つまり、とても一時的で、大きくて、安価にできる空間が必要とされた。その空間は韓国文学のブックフェスのイベント会場である。

 あまりに当たり前のことだが、計画される空間にはすべて機能と持続時間が設定される。たとえば住宅は人間が安全で快適に過ごすための場所を30年間は持続させる空間を目指し、高架橋は車や列車などを載せて走らせる道を100~200年は持続させることを目指す。あるいはビニールハウスは農作物が生育しやすい環境を1~数年間だけ持続させることを目指すし、テントは風雨をしのげるスペースを数日間だけ持続させることを目指す。この会場では来場者と本と出店者を祝福する空間を刹那的に1日間だけ持続させることが求められる、ということであった。

 そのベースとなる空間は、面積220㎡で天井高4mの貸しイベントスペースである。かなりたっぷりとした気積であるけども、ブックフェスにふさわしいヴィジュアルインパクトをもたせなければならない。そして会場の都合上、設営は開場前の2.5時間に限られる。短時間で広範囲を装飾するにはどのようにすれば良いか。工学的・施工的には薄紙をたくさん使うのが最適だと考えられた。

 主な材料はグラシン紙とした。グラシン紙はパルプを高圧プレスした半透明で強い薄紙で、古本を包んだりする包装紙であり、平米あたり23.6gとかなり軽い。これに薄紙の純白ロール(平米あたり40g)と合わせて紙の筒を作り、ヘリウムを充填したフィルムバルーンを詰めて宙に浮かせ、会場を案内するサインとした。純白ロールはプロッターで印刷できる最軽量の紙である。これにエディトリアルデザイナーの金子英夫さんに出展社名とナンバーをデザイン・印刷してもらった。紙風船は高い天井の空間に点々と浮かび、人の動きと空調の風で揺らぎ、時間の移ろいによっては日差しを受けて明るく透ける。

 人の背丈より上の空間をサイン領域とした他には、人の背丈より下の空間にある各ブースのテーブルにグラシン紙と色鮮やかなローズ色とスカイ色のtカラペ(平米あたり18g)を重ねて敷き、テーブルカバーとした。韓国文学のポップな装丁と相まって、韓国文化ファンの女性たちに似つかわしい華やかさをもたせている。tカラペはステージの背景にも垂らして、会場全体に共通するキーカラーとした。このキーカラーはパンフレット、ウェブサイト、会場サインといった金子さんのエディトリアルデザインと連動している。

 かくして会場は半透明とカラーの紙で祝福された。その総重量は3500gであり、戸建住宅のわずか7万分の1である。物量の少なさによって撤営は1時間とかからず、紙は古紙としてリサイクルされた。


会場デザイン IN STUDIO(小笹泉)
グラフィックデザイン テンテツキ(金子英夫)
施工 小笹泉、金子英夫、中山淳雄、KBFボランティア
設計期間 2019.9-10
施工期間 2019.11
写真 (1-3枚目)金子英夫、(4,5枚目)小笹泉


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