屋外の質|1940-50年にかけてメキシコシティの人口が150万人から300万人へと文字通り倍加するなか、住宅不足に対応する公共事業として、セントロ・ウルバノ・プレシデンテ・アレマン(Centro Urbano Presidente Alemán=CUPA)が計画された。これは近代建築の旗手マリオ・パニによる1949年の作品でもある。予算・工期・収容戸数の条件から、合理的な方策としてコルビジェの輝ける都市のモデルが採用され、メゾネットを内蔵した高層の住棟が大規模な街区のなかに疎に配置されている。中小規模の集合/戸建住宅がひしめくメキシコシティにおいて、この計画は今日も大きな隣棟間隔を維持している。このことから、過度にセキュリティー意識の高いメキシコにおいて奇跡的に大きな窓を可能にし、山並みと街並みへの眺望と、室内に差し込む豊かな自然光を得ている。またインテリアには6mスパンの梁、24平米に広がる硬質タイル張の床、1m角の太い柱のようなクローゼットなど大きなスケールの造形が現れている。こうした「眺望」「自然光」「大きな造形」といった特徴は、部屋に屋外の質を与えている。
環境の参照と増長|改装では既存の物的環境を参照し、屋外の質を増長することを試みた。雁行した界壁の凹みに、梁型の見込みと同様の横板が、凹んだ壁の見込みと同様の縦板が嵌っている。窓際の壁と梁型が板の反復にすり替わり、棚の機能が付与されている。この棚は縦板勝ちで、家具というよりはフィンのようである。主室を二分する梁の下端には、これに連続して梁巾と同じピッチのルーバー天井が展開している。身体の向きによって、天井面は梁下で広がる低い面であったり、スラブ下の高い面であったりする。この2面のあいだの冗長な空間には照明とスピーカーが収まっていて、部屋に音と光を降り注がせる。フィンのような棚とルーバー天井は、窓からの豊かな自然光を受けて立体的な陰影の縞をつくり、光の存在を強調する。さらに窓と棚のあいだにある2m角の石膏壁には壁画が描かれている。棚の垂直線と窓の外の町並みをトレースした、木の幹とビルの混交した図で、図中の植物は窓際の鉢植えに連続する。太い柱のようなクローゼットから窓際にかけて、塊のようなソファとベンチが横たわっている。家具らしい華奢な脚は無い。
改装で新規に設置した立体は、既存の寸法を参照して展開し、それぞれの要素は既存/新規を問わず形・スケール・モチーフにおいて相互に参照しあっている。こうした手法は既存の立体に敬意を払いつつ環境を増長させるものであり、改装や改築による建築の更新が一般的な方法であるメキシコにおいて有効であると考えられる。